ベテランに負けない能力

営業部のNです。

これは私が若い頃に聞いた話しです。その頃私は大手戸建メーカーへ印刷営業として行っていました。そこである営業の方と親しくなり、飲みに行った時に聞いた非常に興味深い話です。この話はその後私の営業に対する考え方を大きく変えたと言っても過言ではありません。それではその話をこれから書きます。

一軒の古い木造家屋にある家族が住んでおりました。家族構成は夫婦と小学生の息子と娘、ご主人の母親という5人家族。夫婦は常々この古くなった家を建て替えたいと考えておりました。

しかし一つ大きな問題がありました。ご主人のお母様が、頑として建て替えを反対するのです。
「この家はお爺さんと私が建てた家。思い出がたくさん詰まった家を、建て替えなど許しません。どうしても建て替えたいとおっしゃるなら私を置いて皆出て行きなさい。私は1人でも十分生きていけます。」
そうは言っても脚の膝を悪くし歩く事もままならない母親を置いて出て行くわけにもいかず、困っていました。

そこで夫婦は一計を案じるのです。
住宅営業のベテランにいかに快適な生活空間になるか説得して貰えば気が変わるのではないか。早々目当ての営業マンを呼び事の次第を説明して説得して貰いました。しかしこの作戦は大きな裏目となって出てしまいました。
お母様の逆鱗に触れてしまったのです。

その後、営業マンが何度足を運んでも門前払い、お母様はより一層頑なな態度へと変貌してしまいました。しかしそんな頑固になったおばあちゃんにも辛い事がありました、可愛い孫から言われる言葉。
「おばあちゃん、僕、新しい家に住みたいよ、自分のお部屋も欲しいし」
おばあちゃんには、かなり痛い言葉でした。孫の願いを叶えてあげたい気持ちもある、しかし一方で意地もある。心の中で孫に謝りながらも平安ではいられない。

一方営業マンのほうは
「ダメだダメだ!あの頑固なバアさんがいる限り契約は無理だな」
ベテラン営業マンも打つ手無しの状況に陥っていた、その時
「あの〜、僕が行っていいですか?」と今年入ったばかりの新人営業のA君。4月に入って今は夏、まだ数ヶ月しか経っていない。
営業B「お前、俺たちが駄目だったんだぞ、入ったばかりの新人に取れる訳ねえだろ」
営業C「まあまあ、そこは、ほら、営業の厳しさを体験するってのも勉強じゃないですか、本人がチャレンジ精神旺盛だしいいじゃないですか」
と言う訳で新人A君が行く事になりました。その場にいたベテラン営業達数人は、当然の如く誰も期待していなかった。いやむしろ返討ちに会ってガッカリして帰って来る姿を期待したかもしれない。

ところが二週間ほど経ったある日、会社に帰って来たA君はこう報告しました。
「契約して頂ける事になりました。」
その場にいたベテラン営業勢は一瞬静止状態。
次の瞬間脳裏に閃いたのは
〔なんでこんな新人に・・・知識もない、経験もない、ケツの青い、ヒヨッコになぜ取れる?〕
さらに次の瞬間
〔どうやって決めた?会ってもくれない相手から、どうやって契約を取った?しかもあの頑固なバアさんから?・・・わからん?・・・・知りたい、方法が知りたい。〕
本来なら、よくやった!と皆で褒めるべきところを、あり得ない事実に茫然と衝撃が走る。

その時全員が知りたい質問が中堅営業から出た。
「どうやって取った?」
A君の答えに全員が意識を集中させる。
その答えは高度なテクニックでもなく、意表を突いた作戦でもなく、全く理解不能な答えだった。

A君はこう答えた。
「はい、水をやりました」・・「植木に」
多分全員頭の中は???

実はこういうことです
A君が訪問するも、やはり結果は同じで、会社名を言った途端に門前払い、仕方ないので帰ろうとするが、ふと、庭先を見ると植木と草花が真夏の炎天下で萎れかかっている。
A君は思い出した、おばあちゃん多少脚が不自由だと言う事を、きっと水をあげるのも重労働なのだろう。せっかく来たのだから庭先の水道を借りて、枯れないように水をあげて帰ろう。

この同じ行動を何度が繰り返したある日、突然縁側の引戸が開き笑顔のおばあちゃんが座っていました。

「そこの若い人、こっちこっち、お上がんなさい」
「ありがとう、前からあなたが、お水をあげてくれていた事、見てたのよ、癪だから嫁には頼めないし・・あなたはいい人ね、草木を愛する人に悪い人はいないわ、あなたになら安心して任せられそうね」

これが契約に至った真相です。

この話を聴かせくれた方は最後に、僕らは営業として売り上げとノルマ達成に没頭するあまり、大切なことを忘れていました。と締めくくりました。

新人の営業の皆さん、まだ2、3年の営業の皆さんも、お客様の心と、付き合う事ができれば、上司が取れないような大きな仕事を受注する事も可能です。ベテランが無理だから、新人の自分にできる訳がない、などと思ってはいけません。もしかするとあなたにはトップセールスとしての能力が眠っているかもしれません。